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リーダー・マネージャー必見:リーダーの成長が止まる時

HBRが明かす成長停滞の真因と、成長を再起動させる実践的アプローチ


「自分は力不足ではないだろうか」
「準備ができているかどうか、自信がない」

新しい任務を与えられたマネジャーが、こうした不安を抱くことは珍しくありません。しかし、より深刻な問題があります。それは、優秀で野心的だったマネジャーが、ある時点から成長を止めてしまうという現象です。

Harvard Business Reviewの記事「リーダーの成長が止まる時」(リンダ・A・ヒル、ケント・ラインバック著)では、驚くべき事実が明らかにされています。多くのマネジャーが、ある程度の習熟度に達すると、そこで立ち止まってしまう。もっと先にまで行けるはずなのに、自己研鑽を止めてしまうのです。


本記事では、HBRが指摘する成長停滞の要因を紹介するとともに、私自身が6,000人以上のリーダーを支援してきた経験から、成長を再起動させるための実践的なアプローチをお伝えします。


年末のこの時期に、改めてご自身のリーダーシップを見つめ直すきっかけとしていただければ幸いです。


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Part 1: HBRが明らかにする成長停滞の真因(概要)

Harvard Business Reviewの記事では、優秀だったマネジャーの成長が止まる主な要因が明らかにされています:


なぜ成長が止まるのか

主要な要因:


成功体験への固執 – 過去のやり方が通用しなくなっても手放せない

フィードバックループの欠如 – 地位が上がるほど、率直な意見を聞けなくなる

「教える側」への転換 – 学習者から教師になり、学ぶ姿勢を失う

内省の時間の欠如 – 経験を振り返り、学びを抽出する時間がない

自己満足 – 「もう十分」と思った瞬間、成長は止まる


根本的な問題:学びの性質の変化

個人貢献者からマネジャーになると、学びの性質が根本的に変わります。リーダーシップは「誰かに教わるもの」ではなく、「自分の経験を通して学び取るもの」です。この変化を理解していないことが、成長停滞の本質的な原因だとHBRは指摘します。


マネジャーの三つの重要課題

HBRの研究では、有能なマネジャーが影響を及ぼすために必要な活動を、三つの重要課題として整理しています:


  1. 自分自身を管理する – 信頼の源泉となる

  2. 人的ネットワークを管理する – 組織的影響力を構築する

  3. チームを管理する – 真のチームをつくり、集団として機能させる


これら三つの課題の詳細、具体的な自己評価ツール、そして「準備・実行・振り返り」の学習サイクルについては、ぜひHBRの原著をお読みください:


▼Harvard Business Review記事(日本語版)

「リーダーの成長が止まる時」リンダ・A・ヒル、ケント・ラインバック著 https://dhbr.diamond.jp/articles/-/149

※2011年9月号掲載

HBRの記事では、12の評価質問を含む詳細な自己診断ツールと、日々の仕事に学習を組み込むための具体的な方法論が解説されています。


Part 2: 日本企業のリーダーが直面する特有の課題

HBRの指摘を踏まえた上で、私が日本企業のリーダーを6,000人以上支援してきた経験から、日本特有の成長阻害要因をお伝えします。


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日本特有の課題1: 「謙虚さ」が自己評価を妨げる

日本文化の美徳である「謙虚さ」が、時として成長の障害になります。

よく見られる光景:


  • 「自分はまだまだです」と言いながら、実際には自己評価をしていない

  • 強みを認識していない(聞かれても「特にありません」)

  • 致命的な弱みを直視することも避けている


自分の強みと弱み(課題)を認識していないことは、それを活かせないことを意味します。成長の第一歩は、正確な自己認識なのです。


日本特有の課題2: 「察する文化」がフィードバックを阻む

日本には「言わなくても察してよ」という文化が根強くあります。これは、率直なフィードバックの障壁となります。


リーダー側の思考:

「こんなことを言ったら、傷つけてしまうかもしれない」

「言わなくても、わかってくれているだろう」

部下側の思考:

「こんなことを言ったら、関係が悪くなるかもしれない」

「空気を読んで、言わないでおこう」


結果として、リーダーは自分の盲点に気づけず、部下は成長のためのフィードバックを得られません。


日本特有の課題3: 「完璧主義」が実験を阻む

「失敗してはいけない」という意識が、新しいアプローチを試すことを妨げます。


典型的なパターン:

新しいリーダーシップスタイルを学んでも、「完璧にできる自信がない」と実践しない。結果として、成長の機会を逃し続けます。


脳科学の視点としては、脳は「実践→失敗→修正→再実践」のサイクルで学習します。頭で理解しただけでは、神経回路は強化されません。不完全でも実践し、フィードバックを得ることが、成長の必須条件なのです。


日本特有の課題4: 「忙しさ」を言い訳にする

「忙しくて、振り返る時間がない」──これは日本のリーダーから最もよく聞く言葉です。

忙しいことを密かに”勲章”化する。しかし、HBRが指摘するように、経験年数と成長は比例しません。内省なき経験は、単なる時間の経過に過ぎないのです。


Part 3: 成長を再起動させる実践的アプローチ

ここからは、私自身の6,000人以上のリーダー支援経験と、ポジティブ心理学・脳科学の知見を統合した、実践的なアプローチをご紹介します。


実践1: 自己認識を深める──3つのレンズ

成長の第一歩は、正確な自己認識です。以下の3つのレンズで、自分を多角的に見つめます。


レンズ①:自己評価

HBRの記事で紹介されている12の質問を使って、三つの重要課題(自分自身の管理、ネットワークの管理、チームの管理)について自己評価してください。

※詳細はHBR記事をご参照ください。


重要なのは:


全てに高得点をつけない(それは自己認識の欠如)

「3点」に逃げない(現状維持の罠)

強みと弱みを明確に特定する



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レンズ②:360度フィードバック

上司、同僚、部下から率直な意見を集めます。


レンズ③:行動の記録と分析

1週間、自分の行動を記録します。

記録項目:


時間の使い方(何に何時間使ったか)

誰と関わったか(ネットワークの可視化)

どんな感情を感じたか(ストレス要因の特定)


この3つのレンズを通して、初めて自分の「現在地」が見えてきます。


実践2: 優先順位を決める──「致命的な弱み」に集中する

全てを同時に改善しようとすると、何も変わりません。


Clarityianの「成長ロードマップ」作成法:

ステップ1:致命的な弱みを特定する

自己評価で1-2点だった項目の中で、「これがないと、今の役割で成功できない」というものを1-2つ選びます。

ステップ2:伸ばすべき強みを特定する

4-5点だった項目の中で、「これをさらに伸ばすと、組織に大きく貢献できる」というものを1つ選びます。

ステップ3:3ヶ月の学習目標を設定する

具体的で測定可能な目標にします。


実践3: 日々の学習サイクルを回す──脳科学に基づくアプローチ

HBRが提唱する「準備・実行・振り返り」のサイクルを、脳科学の知見で強化したアプローチをご紹介します。


【朝】準備(Prepare):意図的な一日を設計する <所要時間:5分>

【日中】実行(Execute):小さな実験を繰り返す


重要な心構え:


完璧を目指さない(60点で実行する)

うまくいかなくても自分を責めない(実験だから)

気づいたことをメモする(昼休みに30秒でOK)


【夜】振り返り(Reflect):経験を学びに変える <所要時間:5-10分>

帰りの電車の中、または家に帰ってから、その日を振り返ります。

【今日の実験】は何で、【何が起こったか】、そこから【学んだこと】は何か?【次にどう活かすか】【今日の感情の動き】は?そして、1日を5段階で評価してみましょう。


振り返りによって、経験が「長期記憶」として定着します。また、感情と結びつけることで、記憶はより強固になります。


実践4: アカウンタビリティを持つ──一人では続かない

人間の脳の特性として、一人で決意しても、約7割の人は3週間以内に挫折します。これは意志の弱さではなく、脳の仕組みです。


解決策:アカウンタビリティ・パートナー

以下のいずれかの方法で、継続を支える仕組みを作ります:

①エグゼクティブコーチング

②ピア・コーチング

③メンター


実践5: 長期的な視点を持つ──「旅」として捉える

HBRが繰り返し強調するのは、リーダーシップは「到達点」ではなく「旅」だということです。


素晴らしい上司になるには、何年もかかります。それは『クリアすべき旅』です。焦る必要はありません。大切なのは、毎日少しずつ前進し続けることです。


Part 4: 実践を支える3つのマインドセット

知識やツールだけでは、行動は変わりません。以下の3つのマインドセットが、実践を支えます。

マインドセット1: 成長マインドセット

固定マインドセット:「リーダーシップは才能だ。私には向いていない」

成長マインドセット:「リーダーシップは学習できる。努力すれば必ず成長する」

スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授の研究では、成長マインドセットを持つ人は、困難に直面しても粘り強く努力を続け、結果として高いパフォーマンスを発揮することが示されています。


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マインドセット2: 学習者マインドセット

専門家マインドセット:

「私は答えを知っていなければならない」

学習者マインドセット:

「私はまだ学んでいる途中だ。わからないことがあるのは当然だ」

リーダーになっても、常に学習者であり続けること。これが、成長し続けるリーダーの共通点です。


マインドセット3: 実験マインドセット

完璧主義マインドセット:

「失敗は許されない。完璧にできるまで実践しない」

実験マインドセット:

「これは実験だ。うまくいかなくても、それが学びになる」

新しいアプローチを「実験」として捉えることで、心理的ハードルが下がり、行動しやすくなります。

まとめ: 成長を止めるのも、再開するのも、あなた自身

HBRの知見を実践に活かす

Harvard Business Reviewの記事「リーダーの成長が止まる時」では、成長停滞の要因、マネジャーの三つの重要課題、そして詳細な自己評価ツールが解説されています。ぜひ原著をお読みいただき、理論的な背景を深く理解してください。


▼HBR記事(日本語版)

「リーダーの成長が止まる時」リンダ・A・ヒル、ケント・ラインバック著

※2011年9月号掲載


その上で、本記事でご紹介した実践的アプローチは、私自身が6,000人以上のリーダーを支援してきた経験と、ポジティブ心理学・脳科学の知見を統合したものです。


最後に: 今日から始める一歩

成長が止まる時とは、実は「止める時」なのです。

多くのリーダーの成長が止まるのは、能力の限界に達したからではありません。自分で成長を止めてしまっているのです。

逆に言えば、あなたが成長を続けると決めれば、成長し続けることができます。


今日から始められる3つのアクション:

①自己評価をする

HBRの12の質問(原著参照)、または本記事の3つのレンズで、自分の現在地を確認してください。

②今日の振り返りを5分だけする

帰りの電車の中、または就寝前に、今日一日を振り返ってください。「何がうまくいったか」「何を学んだか」を言語化します。

③明日の準備を5分だけする

明日のスケジュールを見て、「どの場面で、何を実験するか」を決めてください。


あなたは今日、リーダーとしてどこにいますか?

そして明日、どこに向かいますか?

その問いに向き合い続けることが、素晴らしい上司への旅を前進させる、唯一の方法なのです。

リーダーシップの旅に終わりはありません。しかし、毎日少しずつ前進すれば、1年後、3年後、5年後のあなたは、今とはまったく違うリーダーになっているはずです。

その旅を、今日から始めましょう。


Clarityianでは、リーダーの成長を支援するエグゼクティブコーチングプログラムを提供しています。

6,000人以上のリーダー支援実績と、ポジティブ心理学・脳科学の知見を活かし、あなたの成長の旅を伴走します。自己評価、成長ロードマップの作成、継続的なコーチングセッションを通じて、あなたが目指すリーダー像の実現をサポートします。


参考文献:


リンダ・A・ヒル、ケント・ラインバック「リーダーの成長が止まる時」Harvard Business Review(日本語版)2011年9月号

キャロル・S・ドゥエック『マインドセット「やればできる!」の研究』草思社


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