日本の職場が直面する「エンゲージメント危機」〜Gallup社レポート
- Satomi Uno

- 11月11日
- 読了時間: 8分
ギャラップ社の最新レポート『変革への挑戦:日本の職場の新しい姿』は、衝撃的な数字を示しています。
日本の従業員エンゲージメント比率はわずか7%─世界最低水準

93%の従業員が「エンゲージしていない」状態にあり、この状況が日本経済に年間約5,240億ドル(GDPの12%)の損失をもたらしていると推計されています。
さらに深刻なのは、過労に関連する労災請求件数が過去最高を記録し続けていることです。特に精神障害に関する請求は、令和2年度の608件から令和6年度には1,057件へと約1.7倍に増加しています。
なぜこのような事態になっているのでしょうか?
レポートは、日本企業が「テクノロジーとビジネスプロセスに重点を置く一方で、人間関係の重要性を見過ごしてきた」と指摘しています。システムは整備されているものの、そのシステムを利用し、持続的な成長の原動力となる人間関係が軽視されてきたのです。
特に印象的なのは、「若者の静かなる革命」という指摘です。若い世代の従業員は、声高に抗議するのではなく、「静かに退職」することで企業の待遇に異議を唱えています。彼らは雇用の安定よりも、パーパス、学習、個人の成長を重視しており、自分の成長が十分にサポートされていると感じられない場合、2年以内に退職する可能性が高いのです。
リーダーシップの本質:「希望」を与えること
では、私たちはどうすればよいのでしょうか?
ギャラップのグローバルリーダーシップレポートが示す答えは明確です。フォロワーが最も求めているのは「希望」です。日本でも、46%が「希望」を最も重要なリーダーシップの質として挙げています(次いで「信頼」45%)。

しかし、ここで言う「希望」とは、単なる楽観的なビジョンではありません。それは、リーダーが日々の行動の中で示すものです。具体的には:
未来について本音で語る - 計画だけでなく、自分が信じていることを共有する
貢献を可視化する - 従業員が自身の役割が目標とどうつながっているか理解できるようサポートする
プレッシャーに立ち向かう - 不確実な状況でも、リーダーの存在が安定感を与える
そして、ハーバード大学のアーサー・ブルックス教授が指摘する通り、真のリーダーシップには「毎日を献身と奉仕に捧げる」姿勢が必要です。今日起こる美しいこと、困難なこと、すべてに感謝し、その決意を真に意味深い方法で固めること。この日々の実践が、あなたが一日を支配するのではなく、一日の始まりにあなたが一日を支配するために重要なのです。
日本の進むべき道
日本の従業員エンゲージメントの継続的な低さは、決して変えられないものではありません。企業は、従業員エンゲージメントとウェルビーイングを優先事項として戦略的に取り組むことで、この傾向を覆せます。
企業のリーダーが従業員エンゲージメントをより高め、明確なパーパスがある、機敏な職場づくりを実現するには今がチャンス、とのこと。
リーダーシップのあり方やマネジャーの教育を見直し、より能力を引き出すためにどのようにサポートするかが成功の鍵です。
本レポートの最後では、日本企業が従業員エンゲージメントを向上させるための4つの重要な戦略を提案しています。
企業の従業員エンゲージメント向上策とは:

重要なことを特定・測定し、実行可能なものにすること
マネジャーは部下を管理するだけでなく、コーチングできるようにする
若い世代のために仕事を再定義する
希望を与えてリードする
1. 重要なことを特定・測定し、実行可能なものにすること
基本的ニーズへの注力
日本企業はオペレーションの強さに定評がありますが、従業員エンゲージメントの向上には、先行指標(従業員の考え方やパフォーマンスに直接影響を与える要因)に注目する必要があります。
レポートでは、以下の基本的ニーズを満たすことが重要だと指摘しています:
期待の明確化
仕事のパーパス(意義)の提供
学びと成長の機会の提供
貢献に対する承認
同僚への信頼の構築
効果的な測定の条件
従業員フィードバック施策が効果的であるためには、以下の要素が必要です:
簡潔でかつ明確:従業員の労力を最小限に抑える
形成的な評価:単なる感情や意見ではなく、エンゲージメントに関連する行動要因
先行指標的:生産性、定着率、安全、ウェルビーイングなどのパフォーマンスとの相関性
実行可能:チームやマネジャーが現場で取り上げることができる課題の特定
「測定結果は、管理職のリーダーシップ向上に役立っているのか?それとも、自分たちが信じたいことを確かめようとしているだけなのか?」
2. マネジャーをコーチとして強化
マネジャーの重要性
Gallup社の調査によれば、チームにおける従業員エンゲージメントの差の70%がチームのマネジャーに起因しています。しかし、多くの日本企業では人材管理は優先順位が比較的低い業務とされています。
最も優れたマネジャーの3つの要素
レポートでは、最も優れたマネジャーは以下の考え方に基づいて行動すると示しています:
強みを活かす:部下の得意分野を把握し、個々の仕事や成長をサポートする
エンゲージメントを重視する:健全な業務習慣を構築し、チームへの評価・フィードバック・期待を明確に伝える
パフォーマンス志向である:高い目標を設定し、明確な方針を示し、チームの責任感を強める
マネジャー育成に必要なこと
研修プログラムの実施だけでは不十分であり、以下が必要です:
マネジャーにより大きな裁量権と自由を与えて、部下を管理するだけではなくコーチングする時間を与える
部下との会話を改善するためのツールとアドバイスを提供する
トップダウン型の法令遵守にとらわれずに、チームレベルでの責任感を強化するシステムとプロセスを構築する
「今日、社内で意味のある会話は行われているか?」
「戦略を実行できるマネジャーを育成しているのか、それとも戦略を通じて従業員をコーチングしているか?」
3. 若い世代のために仕事を再定義する
若者の静かなる革命への対応
次世代の人材を確保、育成して定着させるには、柔軟な働き方やキャリアに関する話し合いの機会を多くするだけでは十分ではありません。求められているのは、職場の根本的な再設計です。
日本の従業員の多くは、毎日自分の得意分野の仕事をする機会がないと訴えています。Gallup社のグローバルウェルビーイング調査でも、「人生の選択を自由にできる」という意識は世界と比べて日本人は低く、この傾向は職場でも顕著になってきました。
職場環境を若い世代のニーズに合わせる3つのポイント
1) ジョブ設計の見直し
従業員の得意分野に基づいて職務を設計する
過去の慣例に固執せず、定期的な評価面談以外にも日常的にパフォーマンスの会話を行う
従業員は自分の強みを活かしながら同僚と効率的に連携して仕事をこなすことで、成果を上げることができる
2) 新任マネジャー育成プログラムの見直し
目標達成に向けたチームの育成とメンバーが強みを発揮できるようにサポートするコーチングを含むリーダーシップ教育を提供
3) 成長の可視化
定期的なフィードバック、目的意識を持った教育、チーム目標への個人の貢献の評価を通じて、従業員が昇進だけではなく、成長の進捗状況と道筋を明確に理解できるキャリア開発プログラムを設計
「自分の職場は、従業員の潜在能力を伸ばしそれに応じた報酬を与えるように設計されているだろうか?それとも従来のやり方を維持するために設計されているのだろうか?」
4. 希望を与えてリードする
フォロワーが最も求めているのは「希望」
2025年グローバルリーダーシップレポートによると、フォロワーのニーズは世界中共通しており、リーダーシップの質で最も重要なのは「希望」でした。日本では「希望」(46%)、「信頼」(45%)、「思いやり」(6%)、「安定」(4%)の順となっています。
しかし、組織のリーダーから刺激を受けた経験があると回答した従業員は世界平均の17%に対して日本は15%でした。
真のリーダーシップに必要なこと
レポートは、今日の真のリーダーシップは説得力のある将来のビジョンを明確に示す必要があり、安定を約束するのみならず、不確実性を乗り越えて企業を導くという強固な決意を持つ必要があると指摘しています。
ある日本企業のリーダーは次のように述べています:
「予測通りに行かなかったとしても、信念を持つリーダーは従業員に希望を与え、部下はそれを期待しているのです」
希望を与えるリーダーシップの3つの実践
変化の時代に自分の組織を率い、希望を与える場合は、以下の点を考慮してください:
1) 未来について話し合う
計画に留まらず、自分が信じていることを共有する
パーパスは推進力、エンゲージメント、そして希望を生み出す
2) 貢献を可視化する
特に結果がでるまでに時間がかかる場合は、従業員が自身の役割が目標とどのようにつながっているか理解できるようにサポートする
3) プレッシャーに立ち向かう
ストレスの多い場面や先行きの見えない状況では、リーダーの存在が安定感を与える
従業員に対して「自分は一人ではない」という安心感を与える
「自分は従業員に計画を示しているのだろうか?それともその計画を信じる根拠を与えているのだろうか?」
まとめ:エンゲージメント向上を高める5つの要素
レポートでは、従業員エンゲージメントを高める要素として以下の5つを挙げています:
パーパス:意味があると感じ、使命感を持って取り組める職務
能力開発:学びと成長の機会の提供
気遣いのできるマネジャー:真摯に心配りをしてくれる人からの支え
強みの活用:日々最も得意なことに取り組むことへの奨励
継続的な会話:継続的なフィードバックとコーチング
日本の従業員エンゲージメントの継続的な低さは、決して変えられないものではありません。企業は、従業員エンゲージメントとウェルビーイングを優先事項として戦略的に取り組むことで、この傾向を覆せます。
日本のリーダーやマネジャーにとって企業文化、従業員のエンゲージメント、ウェルビーイングが重要なテーマと責務になれば、日本企業の生産性と目的意識は向上するでしょう。



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