「上司をマネジメントする」は、部下の仕事である
HBR特集「ボスマネジメント」
1980年の名著と2026年の新研究から
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)2026年9月号の特集は「ボスマネジメント」。上司との関係は、部下が受け身で耐えるものではなく、主体的にマネジメントすべき対象である——この特集で紹介されている2本の論文は、46年の時を隔てながら、驚くほど一貫したメッセージを伝えています。

1980年の名著:「上司をマネジメントする」
ジョン・J・ガバロとジョン・P・コッターによる本稿は、1980年のマッキンゼー賞(現HBR賞)を受賞した古典的論文の再掲です。核心にあるのは「相互依存」という視点。
上司と部下は、互いに不完全で間違いを犯しうる人間同士でありながら、相互に依存し合っている関係にある——この認識を欠くと、部下は上司との関係を管理するのを嫌がるか、うまく管理できないかのいずれかに陥ります。
論文は、優秀な製造リーダーであったフランク・ギボンズと、その部下フィリップ・ボネビーの実例を紹介します。ボネビーは新製品計画の遅延をめぐってギボンズと対立し、わずか1年2カ月で解雇されました。原因は性格の不一致ではなく、ボネビーが上司の目標やプレッシャー、ワークスタイルを理解しようとせず、ボスマネジメントという仕事の存在そのものに無自覚だったことにあります。
論文が提示する処方箋はシンプルです。
まず上司と自分自身、それぞれの強み・弱み・ワークスタイル・ニーズを理解すること。
そのうえで、ワークスタイルの相性、相互の期待の一致、円滑な情報の流れ、信頼性と誠実さ、そして上司の時間と資源の賢い使い方——これらを踏まえた健全な関係を、意識的に構築し管理していくこと。
上司に対して過度に反発する「反依存型」、逆に上司を全能視してしまう「過剰依存型」、どちらも上司を「不完全な一人の人間」として見ていない点で、非現実的な上司観だと指摘されています。
2026年の新研究:不安定なリーダーへの対応
同じ特集に収録されたジェフリー・イップ氏とドリジョン・グルダ氏の新論文は、より心理的・神経科学的な切り口から「上司」という存在に迫ります。
テーマは「不安定さを抱えたリーダー」への対処法。
米国のCEOの71%にインポスター症候群の症状が見られるという調査結果を引きながら、不安定なリーダーを「不安型(承認を強く求め、批判に落ち込みやすい)」と「回避型(一見冷静だが心の距離があり、批判を拒む)」の2タイプに分類します。
処方箋として提示されるのが、精神科医ブルース・ペリーの発達理論に基づく「3Rプロセス」——制御する(Regulate)、関係を築く(Relate)、理由づけをする(Reason)です。
人はプレッシャー下では論理より本能に頼るため、まず相手の神経系を落ち着かせ(制御)、信頼できる関わりを重ねて安心感を築き(関係)、そこで初めて論理的な対話が可能になる(理由づけ)という順序を守ることが重要だとされます。
『ワシントン・ポスト』紙の元発行人キャサリン・グラハムと編集主幹ベン・ブラッドリーの関係、アップルのジョナサン・アイブとスティーブ・ジョブズの関係、ヘンリー・キッシンジャーとリチャード・ニクソンの関係など、歴史的な実例を通じてこのプロセスが解説されています。
46年を貫くもの
1980年の論文は「合理性とスキル」の視点から、2026年の論文は「感情と神経科学」の視点から、それぞれアプローチは異なります。
しかし共通しているのは、上司という存在を「魔法のような保護者」でも「乗り越えるべき敵」でもなく、プレッシャーと弱さを抱えた一人の人間として捉え直すことの重要性、
そして、その関係を能動的に築く責任は部下の側にもあるという視点です。
「上司をマネジメントする」という発想は、日本の組織文化ではまだ十分に市民権を得ていないように感じます。上意下達の意識が根強い職場では、「上司に働きかける」こと自体が生意気に映ることさえあるでしょう。
しかし46年前の名著が示す通り、これは政治的な駆け引きではなく、組織にとって最も生産的な結果を生むための、極めて論理的なアプローチです。
次世代リーダー研修や管理職研修の中に、「部下として上司をどうマネジメントするか」という視点を組み込むことは、日本企業にとってまだ大きな伸びしろが残る領域だと考えています。
参照:
ジョン J. ガバロ、ジョン P. コッター「上司をマネジメントする」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2026年9月号
ジェフリー・イップ、ドリジョン・グルダ「不安定なリーダーにどう対応すればよいか」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2026年9月号
本稿はDIAMONDO社が発行している最新レポートです。本記事は上記2本の論文レポートをもとに、株式会社クラリティアンが独自に要約・解説・再構成したものです。原典の著作権はDIAMONDO社に帰属します。
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