新入社員受け入れ準備の新常識:「エバーボーディング」
- Satomi Uno

- 1月18日
- 読了時間: 6分
従来のオンボーディング指標からの脱却
春の新入社員受け入れに向けて準備を進めている時期かと思います。TDマガジン最新号より、オンボーディングの新しいアプローチをご紹介します。

従来の指標では、ビジネスへのインパクトを証明できない
『Move on From Traditional Onboarding Metrics(従来のオンボーディング指標からの脱却)』(著者:Amber Watts)は、多くの企業が依存している以下の指標に警鐘を鳴らします:
完了率
出席率
初日の満足度調査
これらは単なる「活動(Activity)」の記録に過ぎず、経営層が本当に知りたい「その投資がビジネスを改善したか?」という問いに答えられていません。
なぜ従来の指標は機能しないのか?
1. 完了 ≠ 能力
モジュールの「次へ」ボタンをクリックしたからといって、仕事ができるようになったわけではありません。完了率100%でも、目標達成率が低いケースは多々あります。
2. 満足度 ≠ 定着力
入社5日目の満足度が高くても、180日後もエンゲージメントが高く維持されているとは限りません。初期の満足度は「試乗」の感想に過ぎず、実際の過酷な環境での運転(実務)を反映していません。
3. イベントとしての扱い
オンボーディングを「終了ライン」のあるイベントとして扱うと、実際のパフォーマンス向上要因(コーチングやフィードバック)を見逃し、ROI(投資対効果)を損ないます。
新しいアプローチ:「エバーボーディング(Everboarding)」
現代の職場では、オンボーディングを単発のイベントではなく、従業員の全期間にわたる継続的なプロセスとして再定義する必要があります。
エバーボーディングとは:
学習をオリエンテーション以降も継続させる
業務の流れに統合する
成長をL&D・マネージャー・従業員の共有責任とする
エバーボーディングの3つのフェーズ

フェーズ1:Onboarding(オンボーディング)- L&D主導
目的:
コンプライアンスだけでなく、「自信」と「準備状態(Readiness)」を構築すること
アクション:
知識を教える
シミュレーションを行う
実際に試させる
測定すべき指標:
出席率 → ✗
自信度、理解度 → ✓
初日からビジネス成果に結びつく目標設定
フェーズ2:Development(能力開発)- マネージャー主導
目的:
エンゲージメントとスキルの成長を促進するエンジンとなること
アクション:
30・60・90日ごとの「マイルストーン・チェックイン」を実施
これは単なる業務報告ではなく、以下に焦点を当てた意図的な対話です:
役割の明確化
スキルギャップの評価
フィードバックと称賛
次の30日間のコミットメント
フェーズ3:Refinement(洗練・熟達)- 従業員主導
目的:
自律的な成長とマスタリー(熟達)への移行
アクション:
従業員自身がストレッチ課題(少し背伸びが必要な課題)を探す
キャリアについての会話を主導する
マネージャーとL&Dは、機会を可視化し、障壁を取り除くことでサポート
測定すべき新しい指標
「活動」ベースのデータから、「ビジネス」に整合した指標へ移行しましょう。

1. 準備完了度(Readiness)
測定方法:
自信度スコア
マネージャーの承認
問い:
オンボーディングで自信という土台ができたか?
2. 適用(Application)
測定方法:
行動観察
プロジェクトへの貢献
問い:
学んだことを使っているか?
3. 自律性(Autonomy)
測定方法:
習熟までの時間
上司へのエスカレーション減少率
問い:
どれくらい早く戦力化したか?
4. 定着と流動性(Retention & Mobility)
測定方法:
コホートごとの定着率
内部昇進率
問い:
タレントを維持・成長させているか?
経営層への報告:言語の転換
経営層は学習用語ではなく「成果」に関心があります。報告の言葉を変える必要があります。
Before → After の例
Before:「新入社員の90%がオンボーディングを完了しました」
After:「新入社員の生産性が目標値に達するまでの期間が30%短縮されました」
Before:「満足度スコアが向上しました」
After:「初年度の離職率が18%低下し、再採用コストを120万ドル削減しました」
成功事例:Fortis Healthcare Solutions
Fortis社は、座学とOJTを組み合わせ、データ主導でマネージャーを巻き込む12週間のプログラムを実施しました。
結果:
新任リクルーターの86%が3ヶ月以内に成果を上げた
2025年の定着率は91%に達した
成功の鍵:
初期の指標(パイプラインの成長など)をL&Dが追跡
進捗が停滞した場合は即座に介入
今すぐできる5つのアクションプラン

1. 現在の指標を監査する
問い:活動ベースか、成果ベースか?
2. 従業員の全ジャーニーをマップ化する
アクション:各段階のオーナー(L&D/マネージャー/従業員)を決める
3. マネージャーにツールを提供する
具体例:
コーチングガイド
マイルストーン・チェックインのテンプレート
フィードバックのフレームワーク
4. 既存のデータを連携させる
統合すべきデータ:
HR(採用・評価)
学習(LMS)
パフォーマンス(目標管理システム)
5. 小さく始め、結果を集めて拡大する
推奨アプローチ:
1部署でパイロット実施
データを収集し、改善点を特定
成功事例を共有
全社展開
日本企業への示唆:「入社後3年で3割が辞める」を変えるために
日本でも新入社員の早期離職は大きな課題です。従来のオンボーディングは:
初日のオリエンテーション
OJT任せ
フォローアップが1年後
こうしたアプローチでは、入社後のリアリティショックに対応できません。
エバーボーディングの視点は、この課題に新たな解決策を提示します:
継続的な学習支援:入社後も学び続けられる環境
マネージャーの役割明確化:育成責任を明確に
従業員の自律性促進:自分でキャリアを切り拓く力
おわりに:オンボーディングからエバーボーディングへ

2026年度の新入社員受け入れ準備、従来通りの「オンボーディングプログラム」で進めますか?
それとも、入社から定着、そして成長までを見据えた「エバーボーディング」にシフトしますか?
完了率や満足度という「活動指標」から、生産性向上や定着率改善という「ビジネス成果」へ。この転換が、これからの人材開発に求められています。
新入社員が自信を持ち、成長を実感し、長く活躍できる組織づくり――エバーボーディングは、そのための新しい地図を提供してくれます。
参考文献
Amber Watts (2026). "Move on From Traditional Onboarding Metrics" ATD TDマガジン 2026年1月・2月号
TD Magazine:世界最大の人材開発専門家の非営利団体であるATD(Association for TalentDevelopment)が発行する定期刊行物です。この雑誌は、最新の人材開発のトレンド、ベストプラクティス、研究成果などを紹介、効果的なトレーニングプログラムの設計と実施方法・次世代リーダー育成戦略やリーダーシップ開発・テクノロジーの最新動向とその活用方法・組織開発などのトピックを取り扱っています。
日本の人事・人材開発担当者や対人支援者にとって、グローバルな視点からの洞察を得る貴重なリソースとなります。最新の人材開発の動向を把握し、自身の専門性を高めるための有益な情報源として、TD Magazineの活用をお勧めします 。



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