学習費用は$408減、でも学習時間は3時間増——ATD 2026 State of the Industryから読む人材開発の今と優先課題とは
- Satomi Uno

- 6月5日
- 読了時間: 4分
ATDが毎年発行する「State of the Industry」は、世界の人材開発(TD)部門のベンチマークデータをまとめた、業界標準のレポートです。2026年版(対象:2025年の340組織のデータ)からは、人材開発の現場で何が起きているか——その複雑な実態が浮かび上がります。
2025年の主要ベンチマーク:数字で見る人材開発の現在地


費用が大幅に下がっているにもかかわらず、学習時間は増えている——この「逆転現象」が今年の最大の特徴です。
ATDはその背景として、バーチャル型インストラクターリード研修の普及による出張コストの削減、TD部門の人員削減による人件費の低下、そして管理プロセスの自動化による効率化を挙げています。
学習時間の増加
学習時間は2021年の17.4時間、2022年の20.7時間、2023年の32.9時間という高い水準から、2024年に13.7時間へと急落し、2025年に16.7時間へ回復しています。
この変動の背景には、コロナ禍後の学習形態の移行と、組織の学習文化の成熟度が反映されていると考えられます。

2025年の最も一般的な学習デリバリー形式は、対面のインストラクターリードクラスルーム(ILC)でした。
一方、技術活用型学習としてはポッドキャスト・動画、シミュレーション・シナリオベース学習が多く活用されています。
また、オン・ザ・ジョブ研修では「ジョブエイド(83%)」と「コーチング(71%)」が最も一般的な形式でした。
人材開発担当者が「今後の最優先課題」として挙げた、5項目
スキルギャップの解消(43%):AIや業務変革に伴い、組織内のスキルの需給ギャップが急拡大している
学習プログラムとビジネス目標の整合(41%):学習がビジネス成果に直結していることを示す必要性が高まっている
学習文化の醸成(34%):一時的なイベントではなく、日常の中に学習が根付く文化の構築が求められている
リーダーシップ開発(33%):急速な変化の中で、次世代リーダーの育成が引き続き重要課題として位置づけられている
AIの活用(生成AIを含む)(31%):AI・生成AIの戦略的な活用が、人材開発の優先課題として明確に浮上している
一方、人材開発担当者にとって現実的には何がチャレンジなのか?
複数の要求の優先順位づけ(46%)
少ないリソースでのスケール(33%)
変化のスピードへの対応(27%)
予算・リソースの不足(27%)
測定可能なビジネス成果の報告(26%)
組織変革の推進(24%)
リーダーシップ開発(21%)

「優先課題」と「実際の課題」を並べると、あるパターンが見えてきます。
TD担当者は「スキルギャップの解消」「ビジネス目標との整合」「学習文化の醸成」を目指しながら、実際の現場では「要求の多さ」「リソースの不足」「変化のスピード」に追われています。
つまり、「やりたいこと」と「できること」の間に、構造的なギャップが存在しているのです。
7つの課題のうち、「測定可能なビジネス成果の報告(26%)」がTop 5に入っていることも見逃せません。ROIをすべての研修で測定している組織がわずか13%という現実と合わせると、「成果を示せない→リソースが確保できない→スケールできない」という悪循環が、多くの組織で起きていることが浮かび上がります。
人材開発幹部の信頼指標:慎重な見通し
ATDのTD Executive Confidence Index(TD幹部の信頼指数)は、2024年の67.2から2025年の63.1へと4.1ポイント低下しました。50以上はポジティブな見通しを示しますが、この下落の主因は財務リソースへの不安です。
「今後6ヶ月で財務リソースが増加する」と予測したのは28%にとどまり(前年48%)、減少を予測した割合は25%(前年8%)に急増しています。「TD人員が増加する」と予測したのも21%のみ(前年41%)。
2025年の経済的不確実性が、TD投資の見通しに直接影響していることが見て取れます。
日本のL&D人材開発担当者皆様へ
「より少ない予算で、より多くの成果を」——この命題は日本のL&D担当者にとっても、もはやなじみ深いものになっています。
ATDのデータが示す示唆は明快です。学習時間は増やせる。費用をかけなくても。重要なのは「何を学ぶか」の設計と、「学習をビジネス成果に接続する」視点です。そして、コーチングが学習デリバリーの主要形式のひとつになっていることは、マネジャーの役割が研修プロバイダーの役割へと変化しつつあることを示唆しています。
皆さんの組織のL&D投資は、今年のATDベンチマーク($846/人・16.7時間)と比べてどの位置にあるでしょうか。そこから、次の一手が見えてくるかもしれません。
参照資料
参照:ATD「State of the Industry」2026(原典・英語)
『人材開発業界標準レポート』(ATD, State of the Industy 2026)は、ATDが発行している最新レポートです。本記事は上記レポートをもとに、株式会社クラリティアンが独自に要約・解説・編集したものです。原典の著作権はATDに帰属します。
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