なぜ同じ言葉が「最高の上司」にも「最悪の上司」にもなるのか
今年出会った、あるいは読み返した5つのリーダーシップに関する書籍・論文があります。山口周氏の最新刊、エドガー・H・シャインの遺作となる新版、Center for Creative Leadership(CCL)の最新レポート2本、そして徳岡晃一郎氏の理論。
バラバラに読んでいたはずのこれらに、実はひとつの共通した動きが流れていることに気づきました。今回はその横断的な視点をご紹介します。
リーダーシップは「行為」ではなく「関係」だった
山口周氏の最新刊『コンテキスト・リーダーシップ 「最高の上司」と「最悪の上司」は文脈で決まる』(光文社新書)で、根本的な問いを投げかけます。

同じ言葉、同じ行動をとったとしても、個人間の関係史・組織の状況・社会や時代背景という3層の「文脈(コンテキスト)」次第で、その受け取られ方は正反対になる。
真のリーダーとは、正しい行動の型を知っている人ではなく、「文脈を読み解き、編集する力」を持つ人だという指摘です。
組織心理学の泰斗エドガー・H・シャインの遺作となった『謙虚なリーダーシップ[新版]』(英治出版)も、同じ地平に立っています。役職や権威に基づく形式的な関係(レベル1)ではなく、率直さと信頼に基づく個人的な関係(レベル2)を築くことこそが、組織の本当の力を引き出す。

新版では「状況に対する謙虚さ(Situational Humility)」という概念が加わり、より実践的な内容に進化しています。
個人の英雄では乗り越えられない、集合的な知恵へ
CCL(Center for Creative Leadership)の最新レポート「Reinvention Through Disruption」は、AI・地政学リスク・経済不安が同時多発する「ポリクライシス」の時代に、個々の危機に場当たり的に対応する組織は変化疲労に陥ると警告します。
解決の鍵は「集合的で持続可能な適応力」であり、組織文化(相互依存型リーダーシップへの移行)、個人の器(複雑さを捉える「垂直的発達」)、集合的能力(Direction・Alignment・Commitmentという3つの要素による境界を越えた協働)という3つのシフトが必要だとしています。個人の英雄的リーダーシップでは、もはや複雑な課題は解決できないという前提が明快です。

もう一本のCCLレポート「Wisdom Transfer」は、サクセッションプラン(後継者育成)の本質を問い直します。従来の引き継ぎが「知識(何を・どうやるか)」に留まりがちなのに対し、本当に必要なのは「知恵(不確実な状況での判断力・見極め)」の継承です。
知恵は独占すれば目減りし、共有すれば複利的に増えるという原則のもと、意思決定の現場に同席させる、移行期に“知恵評議会”を組成する、長期的な師弟関係を育むといった実践が紹介されています。
AIが知識やフレームワークを瞬時に生成できる時代だからこそ、人が時間をかけて渡す「知恵」の価値が際立つ、という結びが印象的です。
場をつくる力、越境する力
徳岡晃一郎氏が野中郁次郎氏と提唱する「イノベーターシップ」も、この流れに合流します。マネジメントやリーダーシップを超えて「高い志で未来の社会を創造する力」と定義されるこの概念は、変革リーダーに必須の5つの力——未来構想力、実践知、突破力、越境学習、そして「場づくり力」——を提示します。

中でも「場づくり力」は、共感力を高める支援型リーダーシップであり、個人の突破力だけでなく、周囲との関係構築を土台に置いている点が、ここまで見てきた4つの資料と響き合います。
AI時代だからこそ問われる、人にしかできない力
5つの書籍や資料を横断して見えてくるのは、「リーダーシップ=正しい行動をとること」という前提そのものの書き換えです。行動の型やフレームワークはAIが瞬時に生成できる時代だからこそ、文脈を読む力、信頼に基づく関係を築く力、そして判断の知恵を継承する力という、AIには複製できない人間の価値が、リーダーシップの核心として改めて問われています。
2026年5月にLAにて参加したATD26にて繰り返し立ち上がった「人間にしかできないことは何か」という問い。今回横断した5つのリーダーシップ論は、その問いに対する、それぞれ異なる角度からの応答だと感じています。
日本企業の人材開発の現場では、いまだに「優れたリーダーの行動リスト」を作ることに労力が注がれがちです。しかし本当に育成すべきは、リストの実行力ではなく、山口氏の言う「文脈を編集する力」であり、シャインの言う「レベル2の関係性」を築く力ではないでしょうか。
次世代リーダーの育成計画を見直す際は、ぜひ「何をさせるか」だけでなく「どんな関係性の中で学ばせるか」という視点を加えてみたいと感じました。
参照:
CCLレポートはCenter for Creative Leadership社が発行している最新レポートです。本記事は上記レポートをもとに、株式会社クラリティアンが独自に要約・解説・再構成したものです。原典の著作権はCCL社に帰属します。
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