ATD26参加報告【前編】:「変化をリードする」知と対話をLAから
- Satomi Uno

- 24 時間前
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更新日:2 時間前
2026年5月、ロサンゼルスで開催されたATD26(Association for Talent Development の国際カンファレンス)に参加してきました。
世界最大の人材開発カンファレンスに、今年もATD MNJ理事として、そして株式会社クラリティアンの代表として足を運びました。
帰国後の6月25日、単独の報告会を開催し、約2時間、現地で得た学びを自分なりの視点で整理してお伝えしました。今回は、その報告会の内容をベースにしながら、報告会という場では言い切れなかった私自身の考えや、その後も続けた探究のプロセスも織り交ぜて、あらためて文章の形に残しておきたいと思って書いています。

前編・後編の2本立てでお届けします。前編では、基調講演のハイライトと、リーダーシップの最前線で何が語られていたかを。後編では、エンパシー、ニューロサイエンス、そして現場での実践までを扱います。長くなりますが、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
ATD(Association for Talent Development)は、L&Dグローバル最大級の組織で従業員の知識とスキルを開発する人々を支援する専門的な会員組織です。
今年の大テーマ:Embrace Disruption. Direct the Future.
今年のATD26のテーマは、「Embrace Disruption. Direct the Future.」——混乱を受け入れよ、未来を自ら導け、というものでした。AI、テクノロジーの急速な進化、組織と人の関係の変容。「変化への対応」というレベルを超えて、「変化をどうリードするか」が問われる年だったと感じています。

今年のATD26では日本からの参加者が187名を記録し、アメリカ以外の国では世界第1位の「Largest Delegation」となりました。
グローバル表彰式では ATD 2026 Global Partner Award と ATD26 Largest Delegation Award のダブル受賞。日本のL&Dコミュニティの熱量を、現地で肌で感じた瞬間でした。
4つのキーノート(基調講演)
まず、初日の朝。ATD Global CEOのTony Binghamが壇上に立って、いきなりこう言いました。
"If you don't like change, today is the slowest day of change for the rest of your life."
「変化が苦手なら、聞いてください。今日が——これからの人生で、最もゆっくりした変化の日です。」
Tonyはデータを並べました。従業員の半数がバーンアウトを感じている。40%が職場に孤独を感じている。「このまま10年後に自社は存続できない」と考えているCEOが45%いる。テクノロジーがこれほど加速しているのに、人が壊れていく——今年のカンファレンスの問いは、そこに置かれていました。
"This moment is not only about technology. It's also about our people."
「この瞬間は、テクノロジーだけの話ではない。私たちの人々の話でもある。」

L&Dの専門家である私たちこそが、この問いの最前線に立っている。
テクノロジーの活用を推進しながら、同時に人間が人間として働ける環境を守る——その両方をリードできるのは、この部屋にいる人たちだ、とTonyは言いました。
世界中から人材開発の専門家が集まるステージで、そう言われたことが、今年のATD26全体の出発点になりました。
1. ザック・カス:「無制限の知性と、私たちの生活を侵食する影」

元OpenAIのZack Kassは、「Unmetered Intelligence(無制限の知性)」という概念を提示しながらも、AIが私たちの生活を侵食する影の部分——思考力の低下(Idiocracy)や人間性の希薄化(Dehumanization)——を正直に語りました。
そのうえで最後に彼が示した備え方が、「Be Human(人間らしくあれ)」。好奇心・共感力・勇気・知恵・ユーモア・道徳心という、長らく「ソフトスキル」として軽視されてきた資質について、彼はこう言い切りました。
"Maybe these are in fact the only skills."
「もしかすると、これこそが唯一のスキルなのかもしれない。」
そして、"Optimism is not naive. It is, in fact, a moral obligation."(楽観主義は世間知らずではない。それは道徳的義務だ)という言葉で締めくくりました。
2. ウィル・ギダラ:「非常識なほどのホスピタリティ」
vEleven Madison Parkを世界No.1レストランに導いたWill Guidaraは、あるランチの日の話をしてくれました。空港に直行する予定の旅行者が「NYのホットドッグだけ食べそびれた」と何気なく言った瞬間、Willは外に飛び出して2ドルのホットドッグを買い、シェフに盛り付けさせてメインコースの前に出した。4人にとって、それはシャンパンもキャビアも超えた瞬間でした。
"One size fits one. The greatest gestures will always be bespoke."
「最高の贈り物は、常に特注品だ。」
この「One size fits one」という言葉は、実は今回の報告会全体を通じて私が一番お伝えしたかったことの核心の一つでもあります。この後も何度か出てくるので、頭の片隅に置いておいていただけたらと思います。

3. リズ・ワイズマン:霧と暗闇の中でリードする技術
"How do you lead when you've never been there before? How do you lead in the dark?"
「地図もなく、霧の中で、どうリードするか?」
彼女の主張は「リーダーだけを育てる時代は終わった。」組織の上から下まで、全員の強さが必要だ、と。リーダーを鍛えるだけでは、上半身だけ筋トレをして脚トレを怠っているようなもの。アイデアをトップからトリクルダウンさせるだけではもう機能しない、現場からボトムアップで湧き上がる思考と即興が必要だ、という彼女の主張は、正直、私にとって目新しい発見というより「やはりそうだよね」という確認に近いものでした。
でも、それだけこのメッセージが今の時代の核心を突いているとも言えます。

4.Freestyle+: 適応力・喜び・繋がりを高める「インプロ」の心理学
日曜のキーノートを飾ったFreestyle+の「Serious about play」(遊びを真剣にとらえる)というスタンスも印象的でした。即興のやり取りをしているとき、聴衆の脳内ではオキシトシン——つながりのホルモン——が分泌されていたという神経科学的な発見。
リーダーに必要なのは、ゲームやインプロを意図的に作り出すことではなく、喜び・エネルギー・遊びを「選ぶ」というマインドセットを持つことだ、と。
"Just choose it." ただそれだけだ、と彼らは言いました。

Freestyle+の「play」、Zackの「Be Human / only skills」、Guidaraの「One size fits one」、Lizの「組織全体の強さ」。登壇者の業界も語り口もまったく違う。
でも4つのキーノートから受け取ったことは、AIが進化する時代だからこそ、人が人をどう感じさせるか。その価値をどう最大化するか? というメッセージだったように思う。
リーダーシップの最前線──接点のない2人が、独立して同じ場所に着地した
では、この結論はリーダーシップの現場で具体的に何を意味するのか。今年のATD26には、この問いに正面から答えた2つのセッションがありました。この2つを並べて見たとき、私はある種の確信を持ったので、少し丁寧にご紹介します。
これはAIの話ではない。
一人目は、6社のCLO(最高学習責任者)を歴任し、直近はVisaのCLOとして在籍していたDr. Karie Willyerd。彼女はセッションをこう始めました。
"This is not an AI talk. It's a talk about capability and judgment and change in a jagged world."
「これはAIの話ではありません。能力と判断と、ギザギザした世界における変化の話です。」
そして彼女が提示したのが、「Jagged Technological Frontier(ギザギザの技術的フロンティア)」というハーバード・ビジネス・スクールの研究概念です。
人間のパフォーマンスの限界は予測できる。でもAIは違う。あることでは人間をはるかに超えていて、別のことでは驚くほど弱い。その境界線が、毎日のように動いている。
だからこそKarieは、私たちL&D・HR専門家にとってかなり衝撃的な一言を放ちました。
「今まで私たちが学んできた変革管理のモデルは——ほぼすべてが、機能しなくなった。」
レビンの「解凍→変革→再凍結」も、コッターの変革8ステップも、「From(現状)」と「To(あるべき姿)」が定義できるという前提に立っています。でも今、「To」が毎日動いている。その前提が崩れたとき、モデルそのものが崩れる、というのです。
認知的白旗
もう一人は、ホールブレイン・シンキングという思考モデルの権威、Ann Herrmann-Nehdiです。彼女はこう言いました。
"I don't think this is a technology issue. The biggest leadership challenge we have is not technological. It's human. It's cognitive."
「今最大のリーダーシップ課題は、テクノロジーではない。人間的なものだ。認知的なものだ。」
彼女が示したデータも強烈でした。変化への準備ができていると感じている経営幹部はわずか18%。リーダーシップが不足していると報告している組織は77%。そしてその根本原因として指摘したのが、リーダーシップスキルの半減期——30年前は10年だったものが、今は2.5年にまで縮んでいるという事実です。しかも新スキルの習得には以前の2倍の時間がかかる。
その突破口としてAnnが提示したのが「メタ認知(Metacognition)=Thinking Agility(思考のアジリティ)」。自分が今どう考えているかを、考えながら気づく力です。
「偉大なリーダーは、難しく考えるのではない。柔軟に考える。」そして、AIとの関係について彼女が残した言葉が、私にとって今年一番刺さった一文でした。
"If you don't know how you think as a leader, AI makes you lazy. If you do, it can make you brilliant."
「自分の思考を知らなければ、AIはあなたを怠惰にする。知っていれば、天才にする。」

AIは中立ではない。あなたがどう考えるかを学習し、それをさらに強化して返してくる。研究では、5人中4人が自分で気づける誤りでもAIの答えに従ってしまったというデータもあります。
Annはこれを「Cognitive Surrender(認知的白旗)」——自分の認知パターンを知らないまま、AIが出すものをそのまま受け取り続ける、見えない漂流だと呼びました。
ここで、少し立ち止まって2人を並べてみてください。
Annは脳科学者、Karieは現場を歩んできたCLO。接点のない2人です。でも彼らは独立して、まったく同じ場所に着地しました。
Annが「オーケストレーター」という新しいリーダー像を描いたのに対し、Karieは「人を管理する」から「人とAIのシステムをオーケストレーションする」への転換を語った。
言葉も出発点も違う。でも指している方向は同じでした。
Karieが最後に示したのが、Don't Outsource Your Judgment(判断をアウトソースするな)というメッセージと、そのための5つの実践——Verify(検証せよ)、Do(自分でやれ)、Explain(声に出せ)、Stay Close(近くにいろ)、Slow Down(ゆっくりしろ)です。
この収束を見たとき、私はある確信を持ちました。
リーダーシップの問題は、突き詰めると「人間の認知」の問題だ、ということです。
メタ認知。Cognitive Surrender。判断のアウトソーシング。これらはすべて、「人間がどう考えるか」「どう考えることをやめるか」の話です。
だとすれば、対人支援に関わる私たちこそが、この「人間の認知」という領域に最も明るくなければいけない——これはAnnもKarieも明示的には言っていませんが、私はこの2つのセッションから、そう受け取りました。
Agency(エージェンシー)
報告会を終えた後も、私は「自分自身のスタディのために」ATD26のセッションログを追い続けていました。セッションアーカイブを追いかける中で、ある一つの単語をめぐる探究が、思いがけず深いところまで連れて行ってくれました。 その一部を、報告会では話しきれなかった「私自身の示唆」として共有させてください。
キャリアトラックのJulie Winkle Giulioniは、Career Agencyをこう定義していました。
「informed(情報に基づいた)・adaptive(適応的な)・intentional(意図的な)な行動を通じて自らの成長を形作る能力」。
これは、1990年代的な「キャリア・オーナーシップ」とは似て非なるものです。
オーナーシップは「キャリアの中身が定義可能である」ことを前提としますが、スキルの寿命がここまで短くなった今、その前提自体が崩れている——だからこそ、「中身を定義する」オーナーシップではなく、「動き続ける」エージェンシーが必要になっている、というロジックです。
面白い発見としては、キーノートスピーカーの一人/Zackもagencyというキーワードを出していた点です。一つはTony Binghamの紹介文の中の "a future that delivers more agency, dignity, and time"。もう一つはKass本人による、Z世代の分断(Kカーブ)の文脈での "Morality and agency become a defining criteria"。
つまり、JulieとZackの"agency"は、射程も定義の性質もまったく違うのです。
Zackが語っていたのは道徳・教育制度という社会レベルの話。Julieが語っていたのは、キャリア開発という実務レベルの話。同じ単語が、まったく異なる高さで使われていました。
さらに私自身がずっと関心を寄せてきたセリグマンの研究(ペンシルベニア大/教授 ポジティブ心理学研究の大家)——効力感・楽観性・想像力という3本柱、そして「私」のエージェンシーと「私たち」のエージェンシーのバランス——を重ねてみたとき、複数の"agency"の使われ方が、次のような2層構造として整理できると感じました。
第1層=核としてのエージェンシー(Core Agency):効力感×楽観性×想像力、「私」と「私たち」のバランスという、領域に依存しない哲学的・心理学的な構成概念
第2層=領域別の応用形(Domain-Specific Agency):Career Agency、Leadership Agencyなど、核を特定の実務領域に翻訳した実装
なぜ今、この言葉がこれほど頻出するのか。
私なりの答えはこうです。
AIによって「できるかどうか」の差がどんどん縮まっていく一方で、「何を選び、どう動くか」の差は逆に拡大していく時代だからこそ、その「選び、動く力」そのものを名指しする言葉が、今、社会全体で必要とされているのだと思います。
そしてもう一つ、これは報告会でも少し触れた話ですが、私が学び続けている成人発達理論(キーガンをはじめとする発達理論家たちの領域)とも、この探究は深くつながっていきました。もし自己中心的な発達段階に多くの大人がとどまっているのだとしたら、「私の」エージェンシーの外側——「私たち」との関係性や、権威への委任構造からの脱却——を、まだ十分に統合できていない可能性がある。だからこそ、Zackの「楽観主義は道徳的義務だ」というメッセージが、時に「無責任な楽観論」として誤解される場面が生まれるのではないか——という仮説です。
この話は掘り下げるとそれだけで一本の記事になってしまうので、今日はここまでにしておきます。ただ、一つだけ確信を持ってお伝えできるのは、「認知を学ぶ」ということは、日記を書くとか瞑想するといった表層のテクニックの話ではない、ということです。認知とは、知覚・記憶・感情・そして意味生成——自分が何をリアルとして見ているか——そのすべてを含みます。「どう考えるか」の問題ではなく、「何を現実として構成しているか」の問題。だから、部下が「なぜそう見るのか」、クライアントが「なぜ変わらないのか」——これはスキルの問題でも、意欲の問題でも、性格の問題でもなく、その人の意味生成の構造の問題なのだと、私は思っています。
後編へ
「Stay Human」とは、具体的に何を指すのか。ヒーロー型リーダーの先にある「具体の問い」に、今年のATD26はどう答えたのか。
後編では、エンパシー、ニューロサイエンス、そして現場のマネージャーが明日から使える実践まで、続けてお届けします。
【参考情報】




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