ATD25ワシントンDC開催レポート:2026年LA開催に向けて知っておきたいこと
- Satomi Uno

- 1月18日
- 読了時間: 9分
2025年5月18日〜21日、ワシントンDCで開催されたATD25。世界最大規模の人材育成国際会議ATD International Conference & Expo(通称:ATD-ICE)現地で参加してきました。今年のテーマは”Collective Insights. Lifelong Learning.”。帰国後、参加者の皆さまと共に報告会を実施し、グローバルの最新トレンドや学びをシェアする機会を持ちました。
2026年はATD26ロサンゼルスでの開催が決定しています。参加を検討されている方、初めての参加を予定されている方にとって、少しでも参考になればと思い、報告会の内容を中心にATD25の様子をご紹介します。
ATD25:数字で見る大会の規模
今年のワシントンDC開催には、8,400名が参加。海外からは83カ国、1,300名以上が集結しました。日本からの参加者は146名で、カナダ、インドに次いで3番目に多い参加国となりました。
会期中、約400のセッションが13のラーニングトラックに分類され展開されました。現地で参加できるセッションは1日4〜5本程度。4日間フルに参加しても20〜25セッションが限界です。残りはアーカイブで追いかけることになりますが、それでも全てを見ることは不可能です。
また、エキスポ会場には350以上のベンダーが出展。世界最大級のL&D関連見本市として、最新のソリューションやテクノロジーが紹介されました。
私はATD MNJの理事として、現地では毎日ダイジェストのシェア会を開催しました。自分自身が参加したセッションだけではなく、他の参加者のセッション内容や感想をお伺いし、その場で意見交換ができるのも、現地参加の大きなメリットのひとつです。

カンファレンス会場、ワシントンD.Cの様子
ATD(Association for Talent Development)は、L&Dグローバル最大級の組織で従業員の知識とスキルを開発する人々を支援する専門的な会員組織です。
今年の大テーマ:Collective Insights, Lifelong Learning
ATD25の全体テーマは「Collective Insights, Lifelong Learning(集合知、そして生涯学習)」。個人ではなく組織やコミュニティ全体が学び合うことの価値、多様な知見を共有して未来の人材開発を形作っていくというメッセージが込められていました。
誰もが学ぶ側であり、伝える側でもある。そして、誰もが生涯を通じて学び続ける存在である――このテーマは、3人のキーノートスピーカーの講演を通じて、見事に体現されていました。
心を揺さぶった3人のキーノートスピーカー

1. シモーネ・バイルズ:「最も賢明な選択は、一時停止する勇気を持つこと」
2024年パリオリンピックで3つの金メダルを獲得した体操選手、シモーネ・バイルズ氏が初日に登場しました。
彼女が語ったのは、2021年東京オリンピックでの団体戦棄権の経験。「ツイスティーズ」という、空中で平衡感覚を失う症状に見舞われ、競技続行が危険だと判断しての決断でした。

「多くの人には失敗と映ったかもしれない。でも、心と体が一致していない状態で競技を続けることは危険だった。自分の健康を守るために棄権という選択をした」
彼女のメッセージは明確でした。最も賢明な選択は、ただ突き進むことだけではなく、一時停止することも含まれる。金メダルを取ることよりも、自分らしくあること、昨日の自分よりも少しでも成長すること――その大切さを、チャーミングでありながら力強く語ってくれました。
2. エイミー・エドモンドソン:「心理的安全性とは、親切にすることではない」
ハーバード大学教授で心理的安全性研究の第一人者、エイミー・エドモンドソン氏がメインキーノートを担当しました。
彼女が紹介したのは「失敗の3分類」です:
基本的な失敗:予防可能なヒューマンエラー
複雑な失敗:予想できなかった要因が重なって起こる失敗
賢い失敗:新たな挑戦や未知の状況下で生じる失敗(これこそ歓迎すべき)
そして、賢い失敗が満たすべき4.5の条件を提示しました:

本当に未知の領域であること
目的の達成を真剣に目指していたこと
十分な準備をしていたこと
必要以上に大きな規模ではないこと
+0.5:失敗から学びを得て共有し、将来に活用すること
この最後の「0.5」が最も見過ごされがちで、最も重要だと強調されました。失敗を再現性のある知恵に変えていくこと――それを可能にするのが心理的安全性です。
エドモンドソン氏の印象的な言葉:「Safety is not about being nice(心理的安全性とは、いい人でいることではない)」。
ぬるい組織のことでもない。
基準を下げることでもなく、高い目標と学びの両立を可能にする土台なのだと、パワフルに語られました。
3. セス・ゴーディン:「地図ではなく、コンパスを渡せ」
マーケター、起業家として知られるセス・ゴーディン氏が、クロージングキーノートを担当しました。メタファーに富んだ、非常にインスピレーショナルなスピーチでした。

工場型思考からの脱却:
効率を最優先し、人間を機械として扱う時代は終わった。仕事が定義できるなら、AIがそれをやるでしょう。人々が価値ある仕事をするために、仕事を創り出すことが重要。
リーダーシップのあり方:
リーダーは部下に「何をすべきか」という地図を渡すのではなく、「どこへ向かうべきか」というコンパスを与えるべき。真のリーダーは、人々が自発的に参加したいと思い、創造性を発揮したいと思う環境を創る。
ページ19を書く:
未完成の未来に貢献する姿勢を「ページ19を書く」という言葉で表現しました。
これは、カーボン・アルマナックプロジェクトでの経験から生まれた考えで、未だ書かれていない「19ページ目」を、誰かが最初の草稿を書き、さらに誰かが改善していく、というプロセスを意味します。
この考え方には「責任を持ち、功績を譲る」という原則が含まれています。そして、「仕事は批判するが、働き手は批判しない」という文化を築くことで、個人的な攻撃を避け、建設的なフィードバックを通じて集団的な改善を促し、より良い仕事へと繋がる。

最後のメッセージは強烈でした。
「私たちは自分が意義あると感じることに、どれだけ本気で取り組めるだろうか?」
――背中を押され、鼓舞され、励まされる、素晴らしいクロージングでした。
グローバルトレンド:AI時代の人材開発
圧倒的なAIセッション数
今年最も顕著だったのは、AIテーマのセッション数が過去最大になったことです。従来トップだったリーダーシップトラック(71セッション)を上回る勢いでした。
注目すべきは、2〜3年前のような「賛否両論の議論」はほぼなくなり、企業での実践が大前提となっていたこと。参加者も非常にポジティブに、AIとの共存・協働について熱く議論していました。
「Use AI」から「With AI」へ
グローバルで今言われているキーワードは、「Use AI(AIを使う)」から「With AI(AIと共に)」へのシフトです。
ATD TDマガジンでも特集されていた「Prompting Is the Problem(プロンプティングが問題だ)」という記事が象徴的でした。完璧なプロンプトを書くスキルよりも、AIと対話しながら考えるスキル――「AIフルエンシー(流暢さ)」こそが重要だという提言です。
AIを「答えを出す自動販売機」ではなく、「思考を深める対話相手」として扱う。この視点転換が、これからの時代に求められています。
リーダーシップパイプラインの危機
DDI社のセッションでは、リーダーシップパイプラインの崩壊という深刻な課題が提示されました:
HRの80%が現在のリーダーシップパイプラインに自信がない
リーダー自身がストレスと燃え尽き症候群に苦しんでいる
ハイポテンシャル人材の退職意向が高まっている
Z世代は管理職を選択しない傾向が他世代の1.7倍高い
これは単なるアメリカの問題ではなく、日本でも同様の傾向が見られるのではないでしょうか。
コーチング進化論:設計者としてのコーチへ
報告会で特に反響が大きかったのが、コーチングに関するセッションでした。
AIコーチ時代における人間コーチの価値
「Digital Coaching Revolution」というセッションでは、人間コーチとAIコーチに求められるものの違いが整理されました:
人間コーチに求めるもの:
感情・共感
コンテキスト(文脈・背景)の理解
関係性のパワー
「本当に分かってくれる」存在
AIコーチに求めるもの:
圧倒的な知識量
中立的な情報提供
24時間即座の対応
非ジャッジメンタルな姿勢
興味深いのは、Z世代の半数が「AIの方がより良いキャリアアドバイスをくれる」と回答しているという事実です。
新たな常識:コーチは設計者であるべき

複数のセッションで強調されていたのが、コーチは1on 1の達人で止まってはいけないというメッセージでした。
これからの時代、プロフェッショナルコーチに求められるのは:
リーダーを育てるコーチ → リーダー育成の仕組みを共に設計するコーチ
セッション提供者 → 組織成果への貢献者
感覚的な実践 → データと感性の統合
つまり、組織全体の課題を捉え、なぜその課題を解決したいのか(Why)を理解し、全体の構造とデザインを設計できる力――これが人間コーチの新たな価値となります。
参加を迷っている方へ:ATDの本当の価値
報告会では、参加者の方々から「現地でしか得られない価値」についても多くの声がありました:
グローバルネットワークの構築
1年に1回、世界中の人材開発のプロフェッショナルとリアルで会える貴重な機会。日本では多忙でなかなか会えない方々とも、ATD現地では必ず会えるという声も多く聞かれました。
トレンドの体感
セッション内容だけでなく、エキスポ会場の雰囲気、参加者同士の会話、質疑応答の内容――そこから「今、世界が何に注目し、何に悩んでいるのか」が肌で感じられます。
学びの多層性
セッションで得られる知識だけでなく、ネットワーキングナイトでの交流、インターナショナルデリゲーションでのオリエンテーション、偶然の出会いから生まれる対話――学びは多層的に訪れます。
ATD26 LA開催に向けて

2026年のロサンゼルス開催は、日本からの参加者が増えそうな予感がしています。私が理事を務めるATDジャパンでは今年もグループ参加登録を実施中です。
また、クラリティアン主催にて、初めて参加される方、久しぶりに参加される方のために、ゴールデンウィーク明けに「ATD26の歩き方〜準備できていますか?」というオリエンテーション会を実施する予定です。詳細は近日発表いたします。
ATDは、単なる研修イベントではありません。グローバルの仲間と学び合い、未来の人材開発を共に考え、自分自身もアップデートする――そんな貴重な機会です。
ワシントンDCで得た学びと刺激を胸に、私も来年は必ずロサンゼルスに行きます。会場で皆さまとお会いできることを楽しみにしています。
【参考情報】
ATD公式サイト:https://www.td.org/
DDI グローバルリーダーシップフォーキャストレポート:無料ダウンロード可能
World Economic Forum「Future of Jobs Report 2025」:無料ダウンロード可能
今回のATD25報告会にご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。皆さまとの対話を通じて、私自身もさらに学びを深めることができました。
ATD26、LAでお会いしましょう!



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