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グローバルトレンド:「Use AI」から「With AI」へ

プロンプト技術よりも、AIと「対話しながら考える」力が重要な時代

TDマガジン最新号より、人材開発のグローバルトレンドを象徴する注目の記事をご紹介します。


プロンプティングが問題だ



ATD TDマガジン2026年1月・2月号に掲載された『Prompting Is the Problem(プロンプティングが問題だ)』(著者:Josh Penzell)は、生成AIトレーニングの在り方に一石を投じる内容です。


現状の課題:「構文」重視のトレーニングの限界

多くの企業が実施しているAIトレーニングは、こんな内容ではないでしょうか?


「まず役割を設定してください」

「次に文脈を追加します」

「最後に出力形式を指定しましょう」


このようなプロンプトエンジニアリング(完璧な指示文の構文を教えること)は、一見理にかなっているように思えます。しかし、筆者は3つの深刻な問題を指摘しています。


問題1:AIの挙動は常に変化する

AIモデルは決定論的(常に同じ答えを出す)ではなく、確率論的です。ハーバード・データ・サイエンス・レビューの研究によると、GPT-4の数学問題の正答率は、わずか3ヶ月で84%から51%に低下しました。


つまり、「完璧なプロンプト」を一度学んでも、モデルのアップデートですぐに陳腐化してしまうのです。


問題2:認知負荷の増大

「どう言い回せばいいか」という構文に集中することは、学習者に無駄な認知負荷をかけます。本来、重要なのは批判的思考や評価といった本質的な認知活動であるはずです。


問題3:受動的な利用

AIを「答えを出してくれる自動販売機」のように扱うと、ユーザーの思考が浅くなります。MITメディアラボの研究「Your Brain on ChatGPT」は、情報の想起率やオーナーシップが低下することを示しています。


必要なシフト:「AIのために演じる」から「AIと共に考える」へ

では、どうすればいいのでしょうか?

筆者が提唱するのは、「AIフルエンシー(流暢さ)」の獲得です。


プロンプトのテクニックを磨くのではなく、AIを対話相手として扱い、反復的な会話を通じて思考を深めるアプローチです。


実践のための6つのシフト

1. 完璧さではなく「確率」で考える

AIは「完璧な答え」ではなく「ありそうな答え」を出します。出力結果を最終回答ではなく、「バージョン0(ドラフト)」として扱いましょう。


実践タスク:

同じ質問を3つの異なるチャットウィンドウで投げかけ、答えの変動(ばらつき)を確認してみてください。


2. とにかく会話を始める

完璧な「最初のプロンプト」を練るために悩んで固まる必要はありません。同僚に話しかけるように、頭にある言葉をそのまま入力して会話を開始しましょう。


3. AIを「鏡」として使う

AIの出力を鵜呑みにするのではなく、自分の思考を深めるために使います。


実践タスク:

「どんな前提を置いている?」

「何を見落としている?」

「懐疑論者ならどう反論する?」


こうした問いかけで、自分の盲点を探ります。


4. 役割を変えれば結果も変わる

AIに単に書かせるのではなく、編集者、批評家、コーチなどの役割を与えます。視点を変えることで、自分一人では気づけない洞察が得られます。


実践タスク:

最終化する前に「顧客、CFO、現場マネージャー、規制当局など10人の異なる視点でレビューして」と依頼してみてください。



5. 量は質を生む

AIの強みは、コストをかけずに大量の案を出せることです。精度を求める前に「量」を出させ、そこから人間が選別(キュレーション)します。


実践タスク:

件名や見出しの案を10〜20個出させ、その中から良いものを2〜3個選び、「これを深掘りして」と指示します。


6. 委任して開発させる

ユーザーが完璧なプロンプトを書くのではなく、AI自身にプロンプトを作らせます。AIを「使いこなす道具」ではなく「共に成長するチームメイト」として扱います。


実践タスク:

セッションの終わりに「もしこれをもう一度やるとしたら、私はどのようなプロンプトを出すべきだった?」とAIに尋ね、AIに最適な指示を作らせます。


L&D(人材開発)の新たな役割

記事は、L&D専門家こそがこの変革をリードすべきだと結論づけています。

なぜなら、AI時代に必要な以下のスキルは、L&Dが長年人間に教えてきた学習とリーダーシップの中核スキル(メタ認知)そのものだからです:


  • 前提を疑う

  • 下書きを反復して改善する

  • 多様な視点を持つ


プロンプティングの構文(Syntax)ではなく、AIとの対話的な流暢さ(Fluency)を教えること――これが、これからの人材開発の重要なテーマです。


グローバルで言われているキーワード:「Use AI」から「With AI」へ

この記事が象徴しているのは、グローバルで今まさに起きているパラダイムシフトです。


「Use AI(AIを使う)」から「With AI(AIと共に)」へ

AIを道具として「使いこなす」のではなく、AIを対話相手として「共に考える」パートナーとして扱う――この視点転換が、個人にも組織にも求められています。


日本の人材開発への示唆

日本企業でも生成AIの導入が進んでいますが、「プロンプト研修」に終始していないでしょうか?

本質的に重要なのは:


  • AIリテラシー:AIを安全かつ効果的に使える力

  • 批判的思考:AIの出力を適切に評価し、精査する力

  • 対話力:AIと反復的な会話を通じて思考を深める力

  • メタ認知:自分の思考プロセスを客観視し、改善する力


これらは、単なる技術スキルではなく、人間だからこそ必要な、より高次の思考スキルです。


おわりに:AIと共に進化する



生成AIの登場は、人材開発に新たなチャンスをもたらしています。

プロンプトの「正しい書き方」を教えるのではなく、AIと共に思考を深め、創造性を発揮し、より良い意思決定をする力を育成する――これこそが、これからのL&Dの役割ではないでしょうか。


従業員がAIツールを「使いこなす」のではなく、「チームメイトとして育てる」手助けをする。そんな未来が、すぐそこまで来ています。

参考文献

Josh Penzell (2026). "Prompting Is the Problem" ATD TDマガジン 2026年1月・2月号

TD Magazine世界最大の人材開発専門家の非営利団体であるATD(Association for TalentDevelopment)が発行する定期刊行物です。この雑誌は、最新の人材開発のトレンド、ベストプラクティス、研究成果などを紹介、効果的なトレーニングプログラムの設計と実施方法・次世代リーダー育成戦略やリーダーシップ開発・テクノロジーの最新動向とその活用方法・組織開発などのトピックを取り扱っています。

日本の人事・人材開発担当者や対人支援者にとって、グローバルな視点からの洞察を得る貴重なリソースとなります。最新の人材開発の動向を把握し、自身の専門性を高めるための有益な情報源として、TD Magazineの活用をお勧めします 。


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