「人間 vs テクノロジー」から「人間 × テクノロジー」へ ——ATD調査が示す学習設計の最適解
- Satomi Uno

- 2 日前
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「対面か、オンラインか」——この問いは、コロナ禍を経た今もL&D(学習・人材開発)の現場で繰り返されます。しかし、ATDが2026年1月に発表した調査報告書『Human-Tech Interface』は、この問いの立て方自体を変えることを求めています。
445名のTD専門家と471名の学習者(いずれも米国)を対象にしたこの調査は、「最適なモダリティは目的と文脈次第」という明確な結論を示しています。
調査概要
対象者:
TD(タレントディベロップメント)専門家 445名 + 学習者(一般就労者) 471名
実施時期:
2025年8〜9月
発行:ATD Research(Association for Talent Development) 2026年1月
スポンサー:Insights(Insights Discovery® を提供する組織開発企業)
Key Finding 1:学習モダリティの選択
TD専門家が見る現状
組織が提供する学習手段として、最も多いのは「対面・バーチャル・ハイブリッドの人間主導型(Human-facilitated)」で87%の組織が導入。ブレンド学習は44%、非同期デジタル学習(eラーニング等)は36%です。
学習者の本音
・ 49%が「対面式ライブ授業(Traditional Classroom)」を最も好む
・ 56%が「対面式ライブ授業が最も効果的」と回答
・ 89%が「ハンズオン(実践型)活動が好き」
・ eラーニングを「最も効果的」と答えたのはわずか13%

一見、「やはり対面が最強」と見えますが、注目すべきは別のデータです。
モダリティ選択の決め手(TD専門家回答)
・ 研修テーマ・内容(70%)がモダリティ決定の最重要要素
・ ハンズオンの必要性(67%)
・ スケーラビリティ(60%)
・ 学習者の好みを「極めて重要」とした割合は35%のみ(ただし53%が「ある程度重要」とも回答)
つまり専門家は、学習者の好みよりも「何を・何人に・どのような目的で教えるか」を優先してモダリティを選んでいます。これは合理的でありながら、学習者体験との「ズレ」を生む可能性もあります。
Key Finding 2:トピック別の最適モダリティ
「何を教えるか」によって、最適なモダリティは大きく異なります。報告書のデータを整理すると以下の通りです。
対面向き(HF):
エグゼクティブ開発(76%)・新入社員オリエン(60%)・コミュニケーションスキル(54%)
デジタル向き(Async):
コンプライアンス研修(70%)・IT/システム教育(62%)・AIスキル(58%)
ブレンド向き:
セールス研修(63%)・カスタマーサービス(54%)・マネジャー研修(54%)
リーダーシップ・管理職研修・コミュニケーション研修は対面主体が有効、という傾向は、「学習は認知ではなく関係の中で起きる」というポジティブ心理学の知見とも一致します。
Key Finding 6:AI活用の現在地
現在、約68%の組織が何らかの「学習者向けAIツール」を導入済みです。最も多い用途は以下の通りです。
パーソナライズド・アダプティブラーニング(37%)
AIチャットボット(34%)
ゲーミフィケーション(29%)
ローカライゼーション・翻訳(29%)
バーチャルコーチング(29%)

重要なのは、TD専門家の82%が「AIは人間主導型学習を補完する」と回答し、77%が「AI導入で研修内容が向上した」と答えていることです。「置き換え」ではなく「共鳴」という認識が多数派です。
"AI can personalize content, but only humans can personalize connection."
「AIはコンテンツをパーソナライズできるが、つながりをパーソナライズできるのは人間だけだ。」
— Tanya Boyd, PhD(Insights 社)
報告書が導くアクションプラン
① モダリティのバランスを戦略的に
開発する研修ごとに「テーマ・予算・時間・学習者ニーズ」を掛け合わせて最適解を判断する。「いつも対面」「とりあえずeラーニング」から脱却することが第一歩です。
② 学習のパーソナライゼーションを深める
TD専門家の60%が対面学習のカスタマイズを実施している一方、デジタル学習のカスタマイズは32%にとどまります。AIを活用したアダプティブ設計により、デジタル学習の「均一性」という弱点を補えます。
③ AIツールを積極的に実験・導入する
チャットボット・アダプティブラーニング・バーチャルコーチングを少数の講座でパイロット導入し、学習者エンゲージメントへの影響を検証することが推奨されています。
"The future of learning lies in the synergy between human connection and technology, not in their competition."
「学びの未来は、人間同士のつながりとテクノロジーの対立ではなく、その相乗効果にある。」
— Tanya Boyd, PhD
人間の接続がもたらす変革的な力と、テクノロジーが可能にするスケールとパーソナライゼーション——この二つが「競争」ではなく「協奏」する設計こそが、次世代L&Dの核心です。
日本のL&Dプロフェッショナルの皆様へ
日本のL&D・研修担当者の方々と話すと、
「eラーニングを導入したけれど定着しない」
「集合研修は効果があるが時間とコストがかかる」
という悩みを非常に多く聞きます。
この報告書は、その悩みへの明快な回答を提供しています。
「何が最高か」ではなく「何のために、誰のために、どのモダリティか」——この問いを立てることが、L&D設計の出発点です。
日本企業は長らく「一斉研修・全員同じカリキュラム」という均質化モデルを採用してきました。しかし学習者は一人ひとり異なる学習スタイル・経験・文脈を持っています。
この報告書が示すパーソナライゼーションへの希求は、日本でも同様のはずです。
特に注目したいのは「エグゼクティブ・管理職研修は対面主体が有効(76%)」というデータです。AIやデジタルツールが学習を効率化しても、リーダーシップ・マネジメントの核心——「人間としての判断力・関係構築力・倫理感」——は、やはり生身の人間との対話の中でこそ磨かれます。
クラリティアンが提供するリーダーシップ開発プログラムは、ブレンド設計を基本としています。集合型ワークショップで体感し、オンラインで振り返り、コーチングで定着させる——この循環が、最も持続する学習を生むと確信しています。
参照資料
参照:ATD Research『Human-Tech Interface: Finding the Right Blend in Learning Design』(2026年1月)(原典・英語)
本記事は上記調査レポートをもとに、株式会社クラリティアンが独自に要約・解説・編集したものです。原典の著作権はATDに帰属します。
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