「すべての輝くものが金とは限らない」──新技術をどう見極めるか
- Satomi Uno

- 11月11日
- 読了時間: 6分
AI、VR/AR、ウェアラブルデバイス...次々と登場する新技術。経営層からは「なぜうちはまだこれをやっていないのか?」という圧力。ベンダーからは魅力的なデモと約束。
しかし、すべての新技術が、あなたの組織に価値をもたらすわけではありません。
TDマガジン11月号掲載の記事「All That Glitters Is Not Gold(すべての輝くものが金とは限らない)」は、まさに私たちが直面している課題を見事に言語化しています。

技術導入における「Driving(主導)」と「Drifting(漂流)」の違いを鋭く指摘
記事の著者Betty Dannewitzによると:
Driving(主導)の例:
ある物流会社は、季節採用が30%急増し、そのほとんどがフルリモートの役割であることを見越して、360度バーチャルオンボーディングツアーとモバイルマイクロラーニングを展開しました。結果?能力習得までの時間が以前のプロセスと比較して25%短縮されました。
Drifting(漂流)の例:
プロジェクト進行中に突然新しいツールが登場。経営陣が「試してみよう」と言う。テストするが失敗し、今度は混乱を解きほぐすことに...
技術評価のためのフレームワーク:BUILDS
本記事では、L&D専門家が新技術を評価するための実践的なフレームワーク「BUILDS」を紹介しています:
Business value(ビジネス価値): この技術はリーダーが気にするKPIを動かすか?
User experience(ユーザー体験): 従業員は本当にこれを使いたいと思うか?
Impact(影響): 倫理的、社会的、組織的な波及効果は?
Learning models(学習モデル): この技術はどんな学習に適しているか?
Dependencies(依存関係): 機能させるために何が必要か?
Signals(シグナル): 市場とベンダーの動向は?
このフレームワークは、「すべてを試す」のではなく、「何が自分たちの時間に値するか、どうテストするか、いつ全面展開するか」を知るためのものです。
研修効果を「物語」で証明する──数値だけでは見えない、真の変化を可視化する。
新しい技術を導入したとき、あるいはリーダーシップ研修を実施したとき、こう聞かれませんか?
「その研修は、実際に参加者の行動をどう変えましたか?」
研修プログラム終了後のアンケート、それだけでは不十分です。TD Magazineの別の記事で紹介されている、ある印象的なエピソードをご紹介しましょう。
著者のRosa Cendrosは、自身のチームが提供したリーダーシッププログラムの卒業生と、ネットワーキングイベントで偶然再会しました。その卒業生は、プログラムで学んだコーチングフレームワークが、チームとの難しい会話をどう変えたかを語ってくれました。
「防衛的に反応しそうになった瞬間、一度立ち止まったんです。その一瞬が、会議全体のトーンを変えました」
これは単なる満足度の話ではありません。実際の行動変容が、プレッシャーの中で職場に現れた瞬間です。しかし、プログラム終了時のアンケートでは、このような具体的な内容は決して捉えられなかったでしょう。
質的データが明らかにする3つの重要な洞察
質的データ(qualitative data)が明らかにするのは:
学習者が新しい行動をどう適用しているか
「四半期計画セッションで、チーム整合ツールを使って議論を再構築した」という具体的な行動
何が適用を促進・阻害しているか
ピアのサポートやフォローアップリソースが助けになった、あるいは心理的安全性の欠如が障壁になった
意図しない波及効果
あるリーダーがアクティブリスニングを実践したところ、チームメンバーも会議で同じ行動を取り始め、正式な研修なしに「注意深く聞く文化」が生まれた
「Stories of Impact」──物語から洞察へ
本記事で紹介されているのは、著者のチームが実践した「Stories of Impact(インパクトの物語)」というアプローチです。
9つのリーダーシッププログラムの卒業生にインタビューを行い、プログラムで学んだことをどう適用したか、何が適用を可能にし何が妨げたか、その学びが他の従業員にどんな波及効果をもたらしたかを明らかにしました。
興味深いのは、このプロジェクトを担当したのは、わずか1人のスタッフメンバーとパートタイムの学生インターンだけだったという点です。3ヶ月間で、複数のプログラムにわたる17のインタビューを実施し、分析しました。
大規模な調査チームがなくても、質的データから強力な洞察を得ることは可能なのです。
Clarityian(弊社)での実践
実は、私自身もこのアプローチの重要性を日々実感しています。
先日、ある外資系企業での心理的安全性ワークショップにて、自チーム・組織の心理的安全性について匿名フィードバックを収集しました。参加者の満足度は高かったのですが、それだけでは十分ではありません。
そこで、ワークショップの3ヶ月後に、参加者の何人かにインタビューを行いました。すると、こんな声が聞かれました:
「以前は会議で意見を言うのをためらっていましたが、ワークショップで学んだ『チームの力学』を意識するようになってから、タイミングを見て発言できるようになりました」
「チームメンバーが失敗を報告しやすい雰囲気を作るために、『ありがとう、教えてくれて』という言葉を意識的に使うようにしています」
これらの具体的な行動変容は、数値だけのアンケートでは決して捉えられませんでした。
今すぐ始められる3つの実践ステップ
では、どうすれば質的データを効果的に収集できるのでしょうか?
1. オープンエンドの質問を工夫する
「その他のコメントは?」ではなく、こう聞きましょう:
「このプログラムで学んだことを職場で適用した具体的な例を教えてください」
「学んだことを実践する上で、何が助けになり、何が妨げになりましたか?」
2. 3〜6ヶ月後のフォローアップ調査
研修直後ではなく、少し時間が経ってから聞くことで、長期的な適用状況や波及効果が見えてきます。
3. AI支援ツールの活用
ChatGPT(匿名データの場合)やMicrosoft Copilot(機密データの場合)を使って、大量のナラティブデータから共通テーマを抽出できます。ただし、人間による解釈と検証は必須です。
質的データは、単に量的データを補完するものではありません。それは、ソフトスキル研修の真の価値を実証するための鍵なのです。
TD Magazine:世界最大の人材開発専門家の非営利団体であるATD(Association for TalentDevelopment)が発行する定期刊行物です。この雑誌は、最新の人材開発のトレンド、ベストプラクティス、研究成果などを紹介、効果的なトレーニングプログラムの設計と実施方法・次世代リーダー育成戦略やリーダーシップ開発・テクノロジーの最新動向とその活用方法・組織開発などのトピックを取り扱っています。
日本の人事・人材開発担当者や対人支援者にとって、グローバルな視点からの洞察を得る貴重なリソースとなります。最新の人材開発の動向を把握し、自身の専門性を高めるための有益な情報源として、TD Magazineの活用をお勧めします 。




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