Gallup社レポート「世界の感情的健康状態 2025」 (State of the World’s Emotional Health 2025)
- Satomi Uno

- 10月13日
- 読了時間: 8分
平和、健康、感情的ウェルビーイングは、相互に密接に関連し、共に上昇または下降する。
State of the World’s Emotional Health 2025が発表された。 本報告書は、GallupがWorld Health Summit(WHS)と提携して初めて発表したレポートであり、WHSの2025年のテーマである「断片化する世界における健康への責任を負うこと」に貢献するものです。
リーダー・マネージャー及び、人材開発担当者や対人支援に携わるプロフェッショナルにとって、本報告書をどのように読み解けばよいのでしょうか。
本報告書サマリー

調査概要と背景
データソース: 2024年に144の国と地域で実施された145,000件の成人へのインタビュー(Gallup World Pollデータ)に基づいています。
分析の連携: Gallupの感情データと、紛争の不在を測るGlobal Peace Index (GPI)、および持続的な平和を維持する制度・構造を測るPositive Peace Index (PPI) のデータを組み合わせて、人々の感情生活と安定性、健康との関連性を示しています。
核心的なメッセージ: 感情的健康は単なる個人的な経験ではなく、「インフラストラクチャ」であり、経済力や政治力と同様に社会を形作るものとされています。
1. 感情的なディストレス(苦痛)の傾向:「感情の危機 (Emotional Edge)」
世界は感情的な危機(Emotional Edge)に瀕しており、不安やストレスといった否定的な感情のレベルは過去10年間で上昇しています。
否定的な感情の蔓延:
◦ 2024年、世界の成人のおよそ10人に4人近くが、前日に多くの不安(39%)
またはストレス(37%)を感じたと報告しています。
◦ その他の否定的な感情も広範に見られます:身体的な痛み(32%)、
悲しみ(26%)、怒り(22%)。
◦ これらの否定的な感情はすべて、10年前よりも高い水準にあります。
不安を感じる割合は2014年より5ポイント高く、2006年より約10ポイント
高くなっています。
影響:
否定的な感情は単に苦痛を反映するだけでなく、人々の集中力を狭め、対処能力を蝕み、慢性化すると個人や社会を不安定化させやすくします。
2. ポジティブな感情の強さ:「回復力 (Resilience)」
苦痛が広がる一方で、日々のポジティブな経験は比較的安定しており、中には改善が見られるものもあります。
尊厳と尊重:
世界の成人のほぼ9割(88%)が前日に敬意をもって扱われたと感じており、これは2023年から3ポイント増加し、Gallupが記録した中で最も高い水準の一つです。
しかし、国別データ(Global Emortions 2025 interactive page:144の国と地域すべてについてのデータ)を見ていくと、日本は世界の平均的なトレンドとは少し違った結果に驚かされます。なんと日本は世界のボトム5に入っているのです。
昨日、朝から一日の終わりまでについて考えてみてください。何をしていたか、誰といたか、どう感じたか。そして、昨日一日、あなたは敬意を持って扱われましたか?

Global Emotions 2025: Top and Bottom Countries by Emotionより
楽しみと休息:
◦ 笑ったり微笑んだりした(73%)、楽しみを経験した(73%)割合は前年並みで
安定しています。
◦ 十分な休息をとったと感じる割合は72%で、過去10年間ほぼ変わっていません。
◦ 何か面白いことを学んだりしたりした割合は52%で、2023年よりわずかに低い
ものの、2014年の水準よりは高いです。
ポジティブな感情の役割:
ポジティブな感情は、人々の気づきを広げ、対処戦略、人間関係、回復力といった持続的なリソースを構築するのに役立つことが研究で示されています。
3. デモグラフィックによる差異
感情の経験には性別や年齢による格差が存在します。
性別による格差:
過去20年近くにわたり、女性は男性よりも、怒り、悲しみ、不安、ストレス、身体的な痛みをより多く報告しており、この格差はパンデミック中に拡大しました。しかし、女性(29%)は男性(27%)よりも「繁栄している(thriving)」と自己評価する傾向がわずかに高く、このことは女性の回復力の高さを裏付けています。
年齢による格差:
◦ 怒りは若年層(15~49歳)で高くなる傾向があります。
◦ ストレスは中年層(30~49歳)でピークに達し、彼らは最も休息不足を感じて
います。
◦ 悲しみと不安は高齢者(50歳以上)でより多く報告されています。
4. 平和と感情の関連性(Peace–Emotions Nexus)
本レポートの最も重要な発見:否定的な感情が「脆い平和(Fragile Peace)」の明確な指標であること。
否定的な感情と不安定性:
◦ 悲しみ、不安、怒りは、紛争や暴力をより多く経験する「平和でない国」
(GPIスコアが高い国)でより一般的です。
◦ 怒り、悲しみ、身体的な痛みは、持続的な平和を維持する構造が弱い国
(PPIスコアが高い国)と強く関連しています。
◦ これらの関連性は、所得水準(GDP)を考慮に入れた後でも依然として強いことが
判明しており、経済的な豊かさだけでは説明できない、平和の脆さが感情的な苦痛に
直結していることを示唆しています。
ポジティブな感情とGDP:
ポジティブな感情(楽しみ、尊重など)は、平和でない社会では少ないものの、その存在は平和そのものよりもむしろGDPに依存する傾向があります。
平和は苦痛を減らすものの、GDPを超えたポジティブな感情的配当をもたらすわけではありません。
早期警戒信号:
否定的な感情(特に怒り、悲しみ、痛み)は、平和が失われるショックに対する敏感な反応を示すため、「脆さの早期警戒信号」としてより信頼性が高いと結論づけられています。
政策的な示唆:
感情的指標は、健康や安定性のリスクを読み取るための「バイタルサイン」として機能します。
政策立案者は、感情を先行指標として追跡し、平和と健康の戦略を統合し、感情を社会的な健康を示す「インフラストラクチャ」として認識する必要があります。平和を無視するリーダーは安定性の基盤そのものを見逃すリスクがあります。
レポートの知見を基に、企業内のリーダー・マネージャー、および対人支援に携わるプロフェッショナルへメッセージ
企業内のリーダー・マネージャーへ
本レポートは、社員の感情的健康を組織の安定性と生産性の基盤である「インフラストラクチャ」として捉えるべきであるという明確な示唆を提示しています。
【感情的健康を組織の安定性として捉える】
1. 高まる職場の不安とストレスへの対応:
世界の成人のおよそ4割が日常的な不安(39%)やストレス(37%)を経験しており、この苦痛は個人の集中力を狭め、問題への対処能力を侵食します。
リーダーは、この高い感情的な負荷が従業員のパフォーマンスやチームの安定性を損なうリスクがあることを認識し、ストレスを軽減するための環境整備を最優先事項とすべきです。
2. デモグラフィックに基づくサポートの最適化:
ストレスは中年層(30~49歳)でピークに達し、この層が最も休息不足を感じています。また、女性は男性よりも日常的なストレスや不安の負担を負う傾向があります。
マネージャーは、特にこれらの層に対し、柔軟な働き方や十分な休息の機会を提供し、特定のストレス要因に対処するテーラーメイドのサポートを設計する必要があるでしょう。
3. 「尊重」を組織のポジティブ・ピースの基盤とする:

世界の成人の88%が「尊重をもって扱われた」と感じている。これは極めて高い回復力を持つポジティブな経験です。しかし日本は、残念なことに世界のボトム5に入る結果でした。組織内においては、日常的な「尊重」の体験こそが、経済的な報酬を超えた、持続的なウェルビーイングを支える組織の「Positive Peace」の構造となります。
リーダーは、マイクロマネジメントを避け、相互尊重の文化を今まで以上に強化することが求められているのではないでしょうか。
人事・人材開発担当者及び、プロコーチなd対人支援に携わるプロフェッショナルの皆様へ
本レポートは、従業員やクライアントの感情的苦痛を「脆さ(fragility)」の早期警戒信号として捉え、長期的な安定(Positive Peace)の構造を構築する支援の重要性を強調しています。
【感情をウェルビーイングのバイタルサインとして活用する】
1. 否定的な感情を「早期警戒信号」として読み解く:
従業員やクライアントが訴える怒り、悲しみ、身体的な痛みといった否定的な感情は、外部環境(仕事、家庭、社会)における「脆い平和」の状況、または内的な不均衡(セルフ・ガバナンスの欠如)を反映する強力で一貫したシグナルです。
特にこれらの感情は、経済状況(所得)を考慮したとしても、従業員やクライアントの安定性の脆弱さと関連しています。
例えば、コーチングにおいては、苦痛を単なる解消対象としてではなく、安定性を脅かすリスクを示す重要な情報として深く掘り下げるべきです。

2. 回復力構築のための「ポジティブな感情」の活用:
否定的な感情は対処能力を一時的に低下させますが、ポジティブな感情(楽しみ、笑い、尊重)は意識を広げ、従業員やクライアントが長期的なリソース(人間関係、新しいスキル、 coping mechanism)を構築することを助けます。
日常の職場や、コーチングセッションにおいて、日常で経験している「尊重をもって扱われた」体験(88%が経験)など、既に強固なポジティブな基盤 に焦点を当て、そのリソースをどのように不安定な領域に応用できるかを探ることが効果的です。
3. 持続的な平和(Positive Peace)の構造を支援する:
国レベルでは、持続的な平和は公正なガバナンスや公平な資源配分によって支えられます(PPI)。従業員もしくは我々のクライアントを支援する目標は、一時的なストレスの軽減(ネガティブ・ピースの回復)に留まらず、「自己ガバナンスの強化」や「価値観に基づいたリソースの公平な配分」といった、彼ら自身の生活における持続的な安定構造(Positive Peace)の構築に焦点を当てるべきです。



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